5 直交行列が回転変換と反転の合成であること
本節では、直交行列
による
一次変換が、
の場合は 3 節で述べた回転変換となり、
の場合は回転変換と反転の合成となることを示す。
そして、回転軸ベクトル
と回転角
の具体的な
計算方法についても考察する。
まず、
の場合を考える。
補題 8 より、
は固有値 1 を持ち、
その単位固有ベクトル (実数ベクトル) のひとつを
とする。

(
30)
補題 1 よりこの
を
の形で表すことができる。ここで、
,
であるが、
の場合は、
の代わりに
と
取り直すことによって、
とできるので、
としてよい。
また、
のとき (
) は、
とする。
補題 3 より、
,
,
は
右手系の正規直交系となる。
,
,
の
による像
,
,
は、
補題 5 により
やはり互いに直交する単位ベクトルとなり、
より

(
31)
となるので、右手系の正規直交系となる。
すなわち、
,
は、
に垂直な面上で
,
を
回転したものになるので (図 4 と同様)、
その回転角を
とすれば、

(
32)
と書けることになる。
すなわち、任意の 3 次元ベクトル
を
正規直交系
,
,
を用いて
と表すと、その
による像は、
となり、
方向の成分は不変で、
,
に関する回転となっていることがわかる。
これにより、
が
を回転軸ベクトルとする
回転を
表すことが示された。
の場合は、固有値は
で、(30) が

(
33)
に変わり、(31) も

(
34)
となるので、
,
,
の像
,
,
は、
左手系の正規直交系となる。
方向の反転変換を
とすると、
は、

(
35)
となるので、合成変換
を考えれば、
となって、(34) により右手系の正規直交系となるから、
の場合と同様にして、
は回転軸ベクトル
に関する
の回転変換となる。
すなわち、
の場合は、
は、回転変換
と、
方向の反転変換
の合成変換であることがわかる。
これで本節の目的の前半部分が示されたことになる。
次は、具体的な回転軸ベクトルと回転角の計算方法について考える。
回転軸ベクトル
は、既に述べたように固有値
に
対する単位固有ベクトルを取ればよいので
から回転軸ベクトルを計算することは難しくない。
の
,
を確定する代わりに、
,
等を求めることを考える。
で、
上に述べたように
としてよいから、
であり、
ならば
,
より
,
で、
ならば
,
で、
となる。よって、
ならば
,
,
、
ならば
となり、いずれも固有ベクトル
の成分を使って表すことができるから、
間接的に
の成分で表せることになる。
回転角
については、
、
の像
(32) の右辺は、
丁度 (16), (17) の式に一致するので、
その
成分から計算できることがわかる。
すなわち、
の
成分を
、
の
成分を
とすると、
これらは
と
の成分で表すことができ、
より、
のときは
となる。これにより
のときは回転角
が一意に決定する。
の場合は
より
,
で、
となるので、
の
による像の
成分
,
成分
から
,
が計算できることになる。
なお、
の場合の反転変換
の行列表現であるが、
これは、(35) より、
![$\displaystyle
B[\mbox{\boldmath$n$},\mbox{\boldmath$\hat{n}$},\mbox{\boldmath$...
...
=[-\mbox{\boldmath$n$},\mbox{\boldmath$\hat{n}$},\mbox{\boldmath$\check{n}$}]$](img262.png)
(
36)
であり、よって右から
の
逆行列、すなわちその転置行列をかければ、
![$\displaystyle
B=[-\mbox{\boldmath$n$},\mbox{\boldmath$\hat{n}$},\mbox{\boldmat...
...\!{[\mbox{\boldmath$n$},\mbox{\boldmath$\hat{n}$},\mbox{\boldmath$\check{n}$}]}$](img264.png)
(
37)
により得られる。
,
,
を使って
実際に計算してみる。
と列ベクトル毎に分けて書き下すと、
となる。よって
は対称行列となるので、
よって
より、
も直交行列となる。
さらによく見ると、
が少し易しい形になることがわかる。
と変形できるので、よって
![$\displaystyle
B = E-2\mbox{\boldmath$n$}\,{}^T\!{\mbox{\boldmath$n$}}
=E-2\left[\begin{array}{c}{n_1}\\ {n_2}\\ {n_3}\end{array}\right][n_1\ n_2\ n_3]$](img271.png)
(
38)
となって、これも固有ベクトル
から容易に計算できる。
なお、
は
行列と
行列の積だから
行列となっている
ことに注意する。
この (38) が (35) を満たすことは、
のように確認できる。
なお、(38) は別な方法でも導くことができる。
(37) より、
となる。
一方、
とすると、
これは直交行列となり、
であるから、

(
39)
となる。これにより、
は、
となって (38) が得られる。
同様にして、
の直交行列
を、(32) を用いて
で表すことを考えてみる。
(32) より、
となるが、
より
と書ける。これに右から
をかけると、
となるが、
,
で、補題 7 より
となるので、結局、

(
40)
が得られる。
これで、
を回転軸ベクトル (1 の固有ベクトル)
と
回転角
で表すことができたことになる。
の成分で表せば、
より、
と列ベクトル毎に分けて書き下すと、
となる。
竹野茂治@新潟工科大学
2021-09-01