3 Riemann 不変量と Darboux の公式
方程式 (3) に対して,
(8)
で定まる
を「Riemann 不変量」と呼ぶ.
ここで
は
の定数で,
では
である.
という組は,
の範囲では
という組に 1 対 1 に対応し,
(9)
と表される. よって滑らかで
な解に対しては,
で考えることと
で考えることは同等となる.
弱エントロピー対
や Young 測度
も,
の関数,
の測度と考える代わりに
の関数,
の測度, と考えることもできる.
で考えると方程式 (3) も対角化され, 色々見通しが良くなり, 本稿でもほぼ
で考察する.
補償コンパクト性理論で用いられる (3) の
近似解は, 一様有界性を持つ人工粘性近似や Lax-Friedrichs 型の差分近似
が用いられる. それらは, ある不変領域を持つことが知られている.
まず,
平面の三角領域
を以下のように定める.
(10)
なお,
は
に対応し, これは常に満たす必要がある.
この
は
平面,
平面では
図 1 のようになる.
図 1:
on
plane and on
plane
 |
なお, これは
平面のものと
平面のものを同一視し, 同じ
で表すことにする.
また, 厳密に言えば弱解は
(
) の値を取り得て, その部分では
は未定義になってしまうのであるが, 弱解は正確には
の対ではなく,
の対で考えるので,
も問題なく弱解として含み得る.
本稿では, 弱解と
に関する議論は詳しくは行わないが, 参考文献[9] を参照のこと.
三角領域
に関して次が成り立つことが知られている.
初期値
がすべての
に対してある
三角領域
に含まれていれば, そこから構成する (3) の
人工粘性近似解, あるいは Lax-Friedrichs 型差分近似解
は,
に対し常に
に含まれる.
これにより, この近似解の部分列
, その汎弱極限
, およびそれに対する Young 測度
が
取れ,
は
以外では 0 となる.
そして, 補償コンパクト性理論により, この Young 測度
と, 任意の弱エントロピー対
,
に対して, 冒頭の Tartar 方程式 (1) が, ほとんどいたるところの
(
) に対して
成り立つことが示される.
ここまでは標準的な流れで, この部分に変更はない.
詳しくは参考文献[9] 等を参照のこと.
あとは, Tartar 方程式を解くのに必要な弱エンロピー対を, 以下のいわゆる Darboux の公式から具体的に生成して, それを使って考察する.
のとき, 実数上の任意の連続関数
に対して,
(11)
は, (5) を満たす弱エントロピー
対 (
) となる. ここで,
は
で,
は
この最後の
は, 逆に
となり, DiPerna[3] は
を自然数とし, Ding-Chen-Luo[2] は
を 1 以上の実数としている.
本稿では,
を自然数として, DiPerna[3] と同じ
の
条件で考える.
弱エントロピー対は, この Darboux の公式 (11) により,
の自由度だけ存在し, ここから多くの種類のエントロピー対を生成できる.
この Darboux の公式の形のエントロピー対を, 本稿では「Darboux エントロピー対」と呼ぶ.
なお, 以後,
とする.
Darboux エントロピー対に対しては
(12)
となる.
本稿の議論で必要なエントロピー対を以下に紹介する.
-
に対して,
を
に近づけた極限, 具体的には
,
なる
に対して
と
して
により得られるエントロピー対
(13)
ここで,
は
(14)
である (図 2). 詳しくは参考文献[9] を参照.
なお, このエントロピー対は, ほぼ Darboux の公式の積分を外して
を除いた形なので, これを本稿では「核エントロピー対」と呼ぶ.
-
に対して,
を
に近づけた極限, 具体的には上の
に対して
と
して
により得られるエントロピー対
(15)
は,
では
を
で微分したものになっている.
なお, 厳密に言えば,
は,
の場合は
,
で連続ではないが,
での積分は可能で,
に対して成立する Tartar 方程式で, Lebesgue 収束定理による極限を取れば,
に対しても Tartar 方程式が成立することが
示される.
-
に対して
として得られる
弱エントロピー対
. ここで
は
で,
は
上滑らかで,
(16)
とする. そして同じ条件を満たす
に対して,
と同様にして構成した弱エントロピー対を
とし,
とする.
図 2:
function
 |
この最後の
を計算する.
は
では
,
で 0 になるので,
回部分積分すると,
(17)
となる. ここで,
は
(18)
の
に関する多項式であり, その境界値は
(19)
となる.
もう 1 回部分積分をすると,
となる.
竹野茂治@新潟工科大学
2023-02-18