3 必要なエントロピーと非整数階微分
Darboux エントロピーで重要なものは、
まずは
を
に
近づけた極限として得られる核エントロピー
と、
に近づけた極限
である。
(8)
(9)
ここで、
は
(10)
である。
なお、
は
に、
は
に、
そして
は
にそれぞれ対応し、
では
には特異性が現れ、
よって Young 測度の適用には注意が必要になる。
また、
(= 急減少関数の族) と取り、
に対し、
として
の
回微分
(11)
としたものに対する Darboux エントロピー対を
、
とする。
(12)
同様に、別の
の関数
から
同じやり方で作ったものを
,
とする。
ここで、(11) の
階微分について説明する。
で十分早く減衰する
上の関数 (例えば
の元)
と、
任意の正数
(
) に対して、
の
階積分
を、
(13)
と定義し (
はガンマ関数)、
に対しては
となる自然数
をとり
(14)
と定める。この定義が矛盾ないことや、通常の整数回の積分の
拡張になっていることは、
が満たす次の性質からわかる。
- 任意の
に対して
- 任意の自然数
に対して
-
そして、実数
に対して
階の微分
を
(15)
と定める。
非正数の
(
) に対しては、
を整数部分
と
小数部分
に分けると、
は、
と書ける。これにより、(12) の
は、
(16)
となる。ここで、積分の順序交換により、
となるので、(16) は、
(17)
となる。ここで
は、
とした。
超幾何関数に関する考察 [4] でとりあげた
を用いて、
を
と書くことにすれば、
では、
により
では
なので、
となる。よって (17) は、
により
と書けることになる。ここで、
とした。
同様に
は、
(20)
と書ける。これらの部分積分を行って
積分の中の
の微分をなくせば、
それは (12) を「
回」
部分積分したことに対応する。
そのような表示を求めるために、前の考察 [4] から
必要な
の性質、境界評価などを改めて取り出す。
命題 1
以下
,
とし、
と
する (
は非整数)。
,
で非整数の
に対して
次が成り立つ。
で言えば、これらは
となる。
-
(
) の
導関数は、
となる (
)。
ここで、
は
にはよらない定数で
(21)
-
に対しては
となる (
)。
よって
なら
で、
なら
では
となる。
-
に対しては
となる (
)。
よって
はいずれも有限値で、
なら
となる。
-
に対しては、
のときは
のときは
のときは
となる。
-
に対しては、
のときは
のときは
のときは
となる。
なお、この命題 1 に出てくる
(
,
,
は非整数) の形の式は、
の場合は (18) の
の積分は収束しないが、
それについては前に [4] で考察した自然な拡張 (解析接続) を
意味するとする。
また、
,
で
,
(で非整数) の場合も、解析接続による値と考える。
すなわち、
,
に対しては、
によって帰納的に定義したもの、
すなわち
となる自然数
に対して、
と考え、
や
に対しては
によって定める。
また、
は前の考察 [4] で導入したものだが、
追加の基本的な性質も含めてあらためて説明する。
は、
に対しては
(22)
で定義され、性質
(23)
により、
,
に対しては
によって帰納的に定義したもの、
すなわち
となる自然数
に対して、
(24)
とする (解析接続)。
補題 2
は以下の性質を満たす。
,
(
)
では
は減少関数で、
,
では、
各
に対して
では
は
減少関数で、
,
(
) に対して
となり、
逆にそれ以外の
では
は 0 には
ならない。
証明
1. 定義 (22)、性質 (23) より明らか。
2. 単調性は
の単調性から明らか。
は、
に対して
より
が言える。
については、
では
なので積分範囲の一部分が
に
発散することを示せばよいが、
に対して
なので、
となる。
3.
に対しては
は (24) で
あり、その右辺の項はすべて
に対して減少するから
も減少関数。
また、その極限も (24) より
となる。
4. 3. より各
に対し
(
) では
は減少関数で、
では
で、
では
となるので、その間で一度だけ 0
になる。そして
では、
(23), (24) より
となる。
さて、命題 1 より、
(
) の 0 階から
階までの導関数
(
) について、
となることがわかるので、
(19), (20) に
回の部分積分を
実行すれば、
となる。ここで、(21)、および
の解析接続によって
これらの係数は
と表すことができる。(25) に対する最後の部分積分では、
となるが、境界値は、0 と
では命題 1 より
であり、
では、
を用いて
と表せる。これにより、(27) の境界部分の極限は、
となる。ここで、
(29)
とした。
なお
より
は有限値でかつ 0 にはならないが、
は補題 2 より 0 になることもある。
(27) の積分部分は、
の
の近くでの特異性、すなわち
| ![$\displaystyle {H_{1,1,[\tau]+2}(x)
\ =\
\frac{1}{\tau+1}\frac{1}{x-1} + \tau(\log\vert x-1\vert-M(\tau)-1)}$](img243.svg) |
| |
|
 | (30) |
を
から分離するために、
次のような
(= コンパクト台を持つ無限回微分
可能関数の族) をひとつ取る。
それに対して、
とし、
ここから
での特異性を取り去ったものを
とする:
(31)
このとき、命題 1 より
(32)
なので、
は
以外では連続で、
で有界かつ可積分、となる。
よって (27) の積分部分は
と分離できる。ここで、関数
,
に対し、一般に
(34)
と書き、
の主値積分と呼ぶ。
この主値積分は一般には有限とは限らないが、
の近くで滑らかな
に対しては、
のように極限を用いない形で表すこともでき、
収束することが保証される。
これにより、結局
は、
と書けることになる。
なお、(32) の
、
および
での段差は、
より
(39)
となることに注意する。
同様に
も、
の部分積分を行うと
であり、
で、
では、
なので、
となり、また
では
なので、
とし、
(40)
とすると、命題 1 より
(41)
であり、
以外で連続で、有界かつ可積分となり、
よって
は
と表される。
この (36)、(42) が、
(12) を
回部分積分した形、
ということになる。
なお、(41) の
と
の
での段差も、
および、(38) より
(44)
となる。
竹野茂治@新潟工科大学
2023-04-03