2 定義、用語、ノルム、極限
本稿では、行列、およびベクトルに関する基本的事項 (積、累乗、転置、
逆行列) は既知であると仮定する。
定義 2.1
を実数全体の集合 (通常
と書く)、
または複素数全体の集合 (通常
と書く) のいずれかとするが、
と考えてもらってさしつかえない。
-
を
の元を要素とする
行列全体の集合とし、
を
の元を要素とする
次正方行列全体の集合とする。
-
に内積とそこから自然に決まる長さ (ノルム) を導入する。
,
の
内積
を
と定め、そこから決まる行列の長さ (ノルム ともいう)
を、
と定める。
定理 2.2
長さ
は以下を満たす。
-
,
ならば
と
は同値
-
-
-
証明
1., 2., 3. は通常の
次元ベクトルの場合と同じだから省略。
4. も明らか。最後の 5. のみ示す。
,
,
とすると、
なので、シュワルツの不等式より、
となる。よって、
より
が得られる。
定義 2.3
- 行列の無限列
(
) の
極限
を、
で定義する。
これは、成分を
,
と
書けば、容易に
となることがわかる。
- 行列の無限列
(
) が コーシー列 であるとは、
となることをいう。
コーシー列の定義はほぼ実数列の場合と同様である。
実数列
の場合、
となるときにコーシー列と呼ぶが、
がコーシー列であることと、
それがある有限な極限値
に収束することは同値となる (証明は省略、実数論と関係する)。
そして、行列の無限列に対しても同じことが言える。
定理 2.4
行列の無限列
(
) がコーシー列であることと、
ある行列
に収束することは同値。
証明
が
に収束すれば、
なので、
よりコーシー列となる。
逆に、
がコーシー列であれば、
の成分も、
よりすべての
に対してコーシー列となり、
よってそれぞれ極限
が存在する。
よって
は
に収束する。
定義 2.5
- 行列の無限列
(
) に対する 無限級数
を、部分和の極限
で定義する。
- 行列の無限級数
は、
すべての
に対し
で、
となる非負実数列
が
存在するとき、絶対収束する といい、
を
の 優級数 と呼ぶ。
定理 2.6
絶対収束する無限級数
は収束する。
証明
の部分和
が
コーシー列であることを示せばよい。
に対して、
となり、この最後の右辺は
のときに 0 に収束するので、左辺はコーシー列となる。
竹野茂治@新潟工科大学
2022-05-02