7 B(1)n の
特異性の回避と Tartar 方程式
5 節では
の有界性とその極限、
6 節では
の有界性とその極限を求めたが、
実は
の方は
の場合には
で
特異性を持つので、このままでは
での積分ができない。
すなわち、
が
の近くで
は有界では
ないので、
が
有限であるという保証がない。
本節ではそれを回避するために、命題 5 の評価に
もとづいて、
よりも先に
での積分を行うような式が
得られかどうかを考察する。
まず、
を生成するための極限に戻して考える。
で
と
なるものを一つ取り、
とし、
(81)
とする。当然これらは滑らかで、
のときに
,
を除いて
,
となる。
,
は、(57) で
考えれば
に関して滑らかで、
,
も連続であり、
よって
の極限を取る前の段階では、当然
(82)
は滑らかなので、問題なく
で積分ができ、
Darboux エントロピーに対して Tartar 方程式が成り立てば、
前の考察 [3] と同様にして、
(83)
も成り立つ。
(83) の両辺を
で積分し Fubini の定理を用いると、
(84)
と変形できる。
この式で
の極限を取ることで
(85)
の式を得ることができるかどうか、
そしてさらにこの式の右辺の
の極限を
考察するのが本節の目標である。
それには次の順で検討していく。
- (B1) (84) の左辺の
のときの極限
- (B2)
を固定した上で、
が
上
に関して一様有界であること
- (B3)
を固定した上で、
のときに
となること
- (B4)
上
が
に関して一様有界であること、
およびその
のときの極限
まずは (B1) から考える。
は、
であるが、
となるので、これを
と書けば
となり、
は
(86)
となる。
は有界なので、
となり、よって
上
は
に
関して一様有界で、
と置換すると、
は有界でかつ連続であり、
倍があるので
と考えてよく (その他の場合は 0)、
そのとき
に対して
,
となるので
Lebesgue 収束定理より、
となり、
の有界性から再び Lebesgue 収束定理より
(87)
となることがわかる。
そして、(86) より
には
倍が含まれるため、
が
の台に
含まれるとき、
,
の
に対しては
となり、よって、
は
の
関数として
,
では 0 となる。
また、
を固定すれば、
(57) より
は
に対して有界で、
よって (87) と Lebesgue 収束定理により、
となり、よってこれで (B1) が示されたことになる。
なお、最後の極限は、Fubini の定理を用いると、
(88)
と書くこともできる。
次は (B2)。
を固定していれば
(57) より
,
は
,
上
有界でかつ連続となる。
は、部分積分により、
となるので、
より
は
上
に関して一様有界となる。よって、
も、
を固定していれば、同じく
に関して一様有界となる。
同様に、
の
に関する一様有界性も容易に示され、これで
が
上
に関して一様有界であること、
すなわち (B2) が示されたことになる。
そして、命題 4 より、
は
を
固定しなくても
,
上 (
に関して一様に) 有界だから、
も
に関して有界となり、
よってこの (B2) により
も
,
上
に関して一様有界となる。
次は (B3)。まずは
(91)
の前半の方を考えると、
となるが、
は
に関して
、
,
は
固定した
に対しては
に関して連続でかつ有界となる。
は
なので、
よって Lebesgure 収束定理が適用でき、
のときに (92) は
に収束する。(91) の後半もほぼ同様にして
が示されるので、
以上により
のとき
(93)
となり、これで (B3) が示された。
なお、
のときは
元々
には
で特異性があるが、
(93) の極限の右辺は、
での積分によりその特異性は
消えてしまうため、この式を
で積分することができるようになり、
よってこの極限の
に関する有界性さえ保証されれば (93) の右辺は
に関して可積分となる
最後は (B4)。まずは
の
上の
に関する一様有界性とその極限
であるが、命題 4 より
は
,
上
に関して一様有界だから
も
上
に関して一様有界
となる。
また、
の極限は命題 4 だったので、
Lebesgue 収束定理により、
(94)
となる。
一方
は命題 5 のように分けると、
に関する
の部分の積分は、それぞれ
となり確かに
で、その積分も
上有界であ
るから、
は
上
に関して一様有界となる。そして
も
上
に関して一様有界となることがわかる。
この極限は、命題 5, (94) と Lebesgue 収束定理により、
(95)
となる。同様に、
の極限は、(95) の
と
を入れ替えただけのものなので、
極限値は同じものとなる。よって、
(96)
は
上
に関して一様有界で、
のときに 0 に収束することが
示されたことになる。そして
それにより (96) の
での積分も可能で、
それも
のときに 0 に収束することになり、
これで (B4) が確定したことになる。
以上により、(84) の
の
極限により確かに (85) が得られること、
そして (85) の右辺が 0 となることがわかり、
(88) と合わせて次が得られたことになる。
命題 6
竹野茂治@新潟工科大学
2023-04-03