階
微分方程式
の形に帰着させることもできる。
例えば、(16) は、
(
: 未知) とすれば、
より
,
と
すれば
の 1 階連立となる。
逆に、(17) から
(または
) を
消去して
の 4 階微分方程式を作ることもできる。
それには、演算子法を利用すると便利だが、その詳しい説明は
微分方程式の本を参照してもらうことにして、
その計算だけを紹介する。
(17) は微分演算子
を用いて
を消去すれば、

よって、1 階連立方程式 (18) を
解くことと
階単独方程式 (19) を解くことは
実質的に同じで、
微分方程式の本では通常どちらかの解法のみを紹介し、
他方の方程式はそちらに変換する方法を紹介する、というのが普通である。
一般的には、より解法を重視する工学系の教科書では
単独方程式 (19) の方で解法を紹介し、
理論を重視する理学系の教科書では
連立方程式 (18) の方で解法を紹介することが
多いように思う。
それは、連立方程式 (18) の解法には行列の理論、
特に
の話が必要になるからだと思われる。
単独方程式 (19) の場合は、
行列を使用せずに特性方程式 (連立方程式 (18) の
場合の固有方程式に対応する) を解くことで、代入法や定数変化法、演算子法、
ラプラス変換などにより行列を用いずに解を求めることができる。
なお、(18) や (19) の
係数
が定数でない場合、すなわち
の既知関数である場合は、
方程式の解法は特殊な場合にしか存在せず、問題はかなり難しい。
本節では定数係数の場合のみ扱う。
方程式に現れる既知関数
がすべて 0 である場合の方程式を斉次形、
一つでも 0 でないものがある場合は非斉次形と呼ぶ。
) を満たす解を考える。
の斉次方程式の場合、
の初期値問題の解は、
一意的に
の両辺に
を左からかけると、
定理 5.3 により、
となるので
は
定数行列であることになる。よって
となるので、
両辺に
をかければ (24) が得られる。
より一般の非斉次方程式の場合は、
に関して
から
まで両辺を積分すると
倍して移項すれば、
が得られる。
いずれも、
の計算によって解がシンプルな形で表現されることになる。
さて、これらを用いて、実際に (20) の 初期値問題
および (21) の初期値問題 の解を求めてみる。(20) は、
の固有値は、
,
、固有ベクトルは
は対角化可能で、
![\begin{eqnarray*}\lefteqn{\int_0^te^{A(t-s)}\left[\begin{array}{c}0\\ \cos s\end...
...n{array}{c}\cos 3t+3\cos t-4\\ 2\sin 3t+6\sin t\end{array}\right]\end{eqnarray*}](img293.png)
とし、
,
と略して書くと、

となること、
のとき
,
となることが容易に確認できる。
しかし、ここまでの手順はかなり長く、(16) を
単独方程式のまま特性方程式と代入法などで解く方がはるかに
短く容易である。
次は、(21) を考える。 こちらは最後までは計算しないが、 ジョルダン標準形位までは求めてみる。 この場合は、
の固有値から。

、
(重複度 3) となる。
の固有空間は 1 次元で、固有ベクトル 1 つを求めればよい。
固有ベクトルの方程式は、
![\begin{eqnarray*}\lefteqn{A-3E
\ =\
\left[\begin{array}{cccc}-3&0&1&0\\ 0&-3...
...}{cccc}0&0&0&0\\ -1&1&0&0\\ -3&0&1&0\\ -3&0&0&1\end{array}\right]\end{eqnarray*}](img308.png)
とすれば
,
,
より
固有ベクトル
は
と取ればよい。
次は
の固有ベクトルを考える。この場合は、
固有空間の次元は 3 以下だが、
![\begin{eqnarray*}\lefteqn{A+E
\ =\
\left[\begin{array}{cccc}1&0&1&0\\ 0&1&0&...
...ay}{cccc}0&0&0&0\\ 1&1&0&0\\ 1&0&1&0\\ -1&0&0&1\end{array}\right]\end{eqnarray*}](img316.png)
に対する固有ベクトルは、
とすればよい。
固有値
の重複度は 3 なので、この場合、
を取る必要がある。
なお、当然これらも一意に決定するわけではなく、例えば
は、
の自由度を持つ解が求まり、
はその
に対してさらに
の自由度を持つ解が求まるはずである。
これらもとりあえずは
のように適当に固定してよい。
まずは
を求める。
方程式
の解を求めるには、
拡大係数行列
の
消去法を行う。実際には
の部分の変形なので、その手順は
の
計算と同じで、違うのは一番右側の列のみとなる。
![\begin{eqnarray*}\lefteqn{[A+E\ \vert\ \mbox{\boldmath$v$}_2]
\ =\
\left[\beg...
...0&0&0\\ 1&1&0&0&1/2\\ 1&0&1&0&1\\ -1&0&0&1&-3/2\end{array}\right]\end{eqnarray*}](img330.png)
に対して
,
,
となり、
としたものを
とする。
最後は
を求める。分数を消すために、方程式を 2 倍して、
を求める計算を行う。
![\begin{eqnarray*}\lefteqn{[A+E\ \vert\ 2\mbox{\boldmath$v$}_3]
\ =\
\left[\be...
...0&0&0&0&0\\ 1&1&0&0&2\\ 1&0&1&0&0\\ -1&0&0&1&-1\end{array}\right]\end{eqnarray*}](img338.png)
は
とすれば
は
を求める。これも消去法で計算するが、
(
) の両辺を 2 倍して、
に対する拡大係数行列の
消去法を行い、なるべく分数計算を避けて計算する。
![\begin{eqnarray*}\lefteqn{[Q\ \vert\ 2E]
=
\left[\begin{array}{cccc\vert cccc...
...5&-4\\
0&0&8&0 &5&-2&3&-4\\ 0&0&0&2 &1&2&-1&0\end{array}\right]\end{eqnarray*}](img346.png)
![\begin{eqnarray*}e^{J(3,1)t}
&=&
e^{3t},
\\
e^{J(-1,3)t}
&=&
e^{-t}\left...
...eft[\begin{array}{ccc}1&t&t^2/2\\ 0&1&t\\ 0&0&1\end{array}\right]\end{eqnarray*}](img348.png)
で
が求まり、
(25) を使えば
が求まる、
ということになる。
しかし、この先もかなり大変な計算が待っていることが想像できる。
公式 (24), (25) は
一見シンプルな形であり、理論展開には便利で重要だが、
具体的な計算に向くかといえばそうでもなく、
特に大きな
ではあまり実用的ではないことが
これらの例からもわかる。
具体的な計算目的なら、むしろ単独方程式の方を特性方程式と代入法や 定数変化法 (やラプラス変換) などで解く方が易しい場合が多いだろう。
竹野茂治@新潟工科大学