4 全微分可能性
ようやく本稿の本題である「全微分可能性」について説明する。
まず、その前に偏微分の方から説明する。偏微分は、一つの変数以外を
定数と見て、1 変数関数のように考えて微分することを指す。
例えば、2 変数関数
に対しては、
の極限が存在するときに、それぞれ
で 「
に関して偏微分可能」、
「
に関して偏微分可能」と言う。これは 1 変数関数の極限である。
これを (3) のように書くと、
となる (
,
)。これらの微分可能性を、
,
だけでなく全方向に広げたものが「全微分可能性」である。
これは、極限の形では表現できないので、
最初から
の方の形で表現される:
の近くの
に対して、
すなわちある正数
に対する
,
となる
に対して、
となるような定数
,
, 関数
があり、
(17)
となるとき、「
は
で全微分可能」という。
この (16) で
とすると、
となり、
なので、これは
が
で
に関して偏微分可能で、
となることを示している。
同様に (16) は
に関する偏微分可能性も含み、
となる。
さらに、
に対して
,
(
) とすると (16) は
となり、よって
より、
の
方向の変化率が
となる。
そしてこれは
の
での「接平面」の存在を保証する。
なお、前節で述べたように、各
に対して
が言えたとしても、(17) が言えるわけではない。
だから、「全微分可能性」は「接平面の存在」よりも強い概念であり、
よって例えば、
で各
方向の変化率 (微分係数) が
存在して 0 であるが、
で全微分可能ではない関数も作れる。
に対する
(
) がそのひとつであり、
これは (0,0) で水平な接平面
を持つ、
すなわちすべての方向に傾きが 0 であるが、
全微分可能ではないことが容易にわかる。
なお、数学辞典 [1] に書かれている
「全微分可能性」は、一般の
変数関数に対する形で書いてあるのだが、
それを
について書けば以下のようになる:
とするとき、
が
のときに
となる
,
が存在するとき、
は
で全微分可能
ただ、この書き方だと、
のところが問題で、
「
のときに」という言い方だと、
「各
に対して」とも見えなくもなく、
正しく 2 変数 (元の数学辞典では多変数) の極限として 0 になる、
あるいは
に関して一様に 0 になる、
のように書くべきだろうと思う。
残念ながら新版の [2] でもそこは改善されていない。
竹野茂治@新潟工科大学
2023-06-19