5 分母の積に重複がある場合
本節では、やはり分母の
が 1 次式の積に分解されているが、
そのうちいつかに重複がある場合を考える。
この場合は、前節のラグランジュ補間公式ではうまくいかない。
本節でも
はすべて異なる実数とし、
(10)
とする。ここで、
は一般には 1 以上の整数である。
まずは前節同様に、先に部分分数分解の形から
を
どのような形で表せばよいかを考える。
この場合の
は、
部分分数分解の原理 ([2]) により
(11)
と分解される。ここで、
は
の整式であり、
その
の
でのテイラー展開からわかるが、
それは分子が定数の
の形に分解でき、よって
は
(12)
の形に分解されることになる。
(12) の両辺に
をかけると、
(13)
となる。すなわち、今度は分子
を
(
,
) の一次式で表すことが目標となる。
これは、一般エルミート補間 ([3],[4]) に
より可能となる。
「一般エルミート補間」は、関数
に対して、
その
での値やその導関数の値
(
,
) を使って
を多項式近似する方法であり、
ラグランジュ補間と同様に、
(14)
に対して
(
,
) となる
次以下の整式
は一意に決定する。
その表現式、すなわち
(15)
の係数
を、
と
の微分係数値
で
表すことを考える。
まず、(15) の、
に関する和の各項を
とする:
(16)
このとき, 各
, および
なる
に対して
には 因数の
に
が含まれるので、
となり、すなわち
は、
の
での
次のテイラー展開となるので、
よって
と得られる。
これを (15) に代入したものが一般エルミート補間である。
命題 4
任意の実数
(
,
) に対し、
となる
次以下の
整式
は常に存在し、そしてそれは (15) に (17) を代入したものになる (それのみである)。
逆に
次以下の整式
は、
(
,
) とすれば、
(15) に(17) を代入
した形に変形される。
証明は命題 2 とほぼ同じなので省略する。
これで、
に 1 次式の累乗が含まれている場合の
の
部分分数分解も、原理的には、
(18)
を計算すれば、未定係数法を使わなくても (13) の
両辺を
で割ることで (12) の形に求まることに
なるのだが、ただ一般には (18) の計算は容易ではなく、
未定係数法より楽に求まるかというと必ずしもそうではない。
むしろ特別な場合、例えば
の場合や、すべての
が 2 以下の場合を
除けば、一般エルミート補間の計算はかなり困難になる。
例 5
の部分分数分解を一般エルミート補間で行う。
とできるが (
は 2 次、
は 1 次、
は 0 次)、
なので、
は
の 2 次の
での
テイラー展開、
は
の 1 次の
での
テイラー展開、
は
の 0 次の
での
テイラー展開。
となるので、
の 2 次のテイラー展開
は
。
より、
の 1 次のテイー展開
は
。
は
、
よって
と分解されることになる。
しかし見てわかるように、
のテイラー展開の計算 (特に
) が
かなり大変である。
これは多少改善は可能で、
を直接求める
代わりに、
を利用すると、
となるので、
の連立方程式をとけば、
,
,
となる。
こちらの方が、連立方程式を解く手間は必要だが、
微分の計算がだいぶ楽になる。
なお、未定係数法による部分分数分解の場合は、
と置いて、両辺
倍すると、
となる。係数比較法だとこの右辺を展開して
となり、ここから
の連立方程式を解くのが面倒である。
特に、
と
と
の連立方程式が
混ざったままで一般には容易に分離できないためそのままだとかなり難しい。
なお、この例の場合は
に
が含まれているため、
2 次以下の項が
のみの連立に分離されているが、
一般にはそうはいかない。
しかしこれも多少改善ができ、
(19) を展開して係数比較をする代わりに
代入法と微分を組み合わせることで係数を求めることができる。
例えば、
には
があるため
はそれぞれ
に等しく、よって、
となるので、
となる。
や
についても同様に、代入法と微分を使うことで、
各
毎に分離して係数を求められるので、
単純な係数比較よりは多少楽になる。
そして、この計算を見ればわかるが、これは一般エルミート補間の
改良版の方の計算と実質的に同等であり、
よって部分分数分解に一般エルミート補間を利用する方法も、
それほどメリットがあるわけではないことがわかる。
竹野茂治@新潟工科大学
2024-12-06