(1)
この方程式の初期値問題は、、
すなわち真空状態が起こりうるかそうでないかで状況が異なり、
である状況下、すなわち初期密度が正で、
初期値の総変動が十分小さい場合には Glimm の差分法により
大域解 (弱解) が存在することが証明されているが、
(等温変化) の場合には初期値が大きくても
真空状態が起こらないことが示されていて、
やはり Glimm の差分法により大域解が存在することが証明されている。
しかし、
(
,
: 定数) のような
断熱変化 (等エントロピー流) の方程式に対しては、
大きな初期値だと初期密度が正でも途中で真空が発生し、
大域解の存在を示すのが困難であったが、
補償コンパクト法 (補完測度法; compensated compactness method) により、
(2)
Ding,Chen,Luo ([4]) らは、
分数回の微分を用いることで DiPerna の結果を
なるすべての
に拡張し、
Lions,Perthame,Tadomor ([8])
らは彼らとはやや異なる方法を用いることでその結果を
の場合に、
Lions,Perthame,Souganidis ([6]) は
の場合に拡張した。
これらによりすべての断熱変化の場合
について、
大きな初期値に対する大域解の存在が証明されたこととなった。
さらにこれらの結果は、Chen,LeFloch ([2]), Makino ([9]) らにより、主要部が
であるようなより一般の
に対してまで拡張されてきている。
これらはいずれも補償コンパクト法による結果である。
単独保存則方程式に補償コンパクト法を用いる場合 ([13] 参照) に比べ、
連立の保存則方程式 (1) に対する (一般化) エントロピーの自由度は低く、
そのエントロピー群に対して成り立つ Tartar 関係式による Young 測度への制約は弱くなるため、
そこから Young 測度を 関数であると決定すること (Tartar 方程式) は、
単独方程式の場合よりもはるかに難しくなる。
そこが補償コンパクト法による単独方程式と連立方程式の解法の大きな違いである。
その Tartar 方程式の解法は、 [4],[5] と [6],[8] では大きく異なっている。 いずれも Tartar 方程式の両辺の「特異性のアンバランス」を用いて Young 測度を決定するのであるが、 前者の方法はそれに必要となる特別なエントロピー群を Darboux の公式から生成して (本稿では仮に 外エントロピー と呼ぶ) それらに対する評価を行うという方法を取っている。 一方後者の方法は、Tartar 方程式を Darboux の公式を与える基本解 (Riemann 関数、本稿では仮に 内エントロピー と呼ぶ) に対する関係式に書き直し、 エントロピーの自由度を Riemann 関数のパラメータに置き換えて考えることで その特異性の主要部をより直接的に導きだす、という手法を用いている。 ただし内エントロピーは特異性を持つため考察がやや難しい。 なお、[2] は内エントロピーを、 [9] は外エントロピーを用いる方法をそれぞれ取っているようである。
本稿は、(2) のような簡単な に対する補償コンパクト法の解説、
特に Tartar 方程式の解法部分の解説を行うのが主な目的であるが、
今回改めて従来の方法を見直したところ、
このような
に対しては一部は外エントロピーを用いる DiPerna らの方法 (を少し改良したもの) の方がわかりやすく、
一部は内エントピーを用いる Lions らの方法の方がわかりやすいことがわかった。
本稿ではそのような方法で (2) のうち特に
に対する
を中心に説明を行う。
竹野茂治@新潟工科大学